不明点を解決できなければ、
お客さまの「失敗体験」になる——
選ばれる電力会社を目指し、顧客体験を再設計
── はじめに、業界を取り巻く環境の変化と、熊谷様の業務内容について教えてください。
電力自由化以降、当社を取り巻く環境は大きく変化しました。価格やサービスを比較される時代となり、従来通りの確実なサービス提供に加え、「お客さまに選ばれる電力会社」であることが求められています。

販売カンパニー リビング営業部 カスタマーセンター 受付管理 副長 熊谷 貴大様
こうした背景から、問い合わせ対応を含め、お客さまと接するあらゆる場面での顧客体験は、企業の信頼を左右する重要なファクターになっています。私自身、プロモーション・マーケティング部門から現在の部署へ異動しましたが、情報をどう伝えるかという視点から、顧客体験そのものをどう設計するかという役割へとシフトしています。
現在は、当社のカスタマーセンターにおいて、電話受付の委託業務を担うチームのマネジメントを通じ、問い合わせ対応の品質向上などによる顧客体験の改善や生産性向上を推進するとともに、電話に頼らず不明点を解決できる環境の整備に加え、AIカスタマーセンターやコールリーズン分析などのAI活用にも力を入れています。
── Helpfeel導入前、問い合わせに関してどのような課題がありましたか?
当社は、低圧の電力契約において、東北6県と新潟県を中心に、600万口以上のご契約をいただいております。そのため、日々膨大な問い合わせを頂戴しており、最大の課題が電話チャネルの問い合わせの多さでした。
3月の引越しシーズンが最繁忙期になり、カスタマーセンターの席数を大幅に増設して対応しています。しかし、入電を受け切れない時間帯もあるなど、応答率の低下と常に向き合っておりました。
一方で、新生活を始める引越しなどのライフイベントは、お客さまと当社を結ぶ貴重な接点です。その一度の機会に不明点を解決できなければ、それはお客さまにとっての「失敗体験」になります。電力会社とお客さまとの関係は長期にわたるからこそ、最初の接点での体験は、企業の評価やご契約の継続性にも影響を及ぼしかねません。

同社の中心拠点の一つである仙台市の夜景。街の灯りの数だけお客さまとの接点が存在している
当時Web上に公開していたFAQは、アコーディオン形式で多くの情報を羅列する構成で、検索機能がなく、必要な情報が充足していたとしても、ユーサビリティに課題がありました。また、アクセスログなどのデータも取得できなかったため、データドリブンな改善にも着手できずにいました。その背景としては、これまでは電話での丁寧な対応がお客さまにとって最善だと考えていたことから、お客さまご自身で不明点を解消していただく「自己解決」への取り組みは、優先度が高くなかったのです。
しかし、電力自由化以降、より柔軟にお客さまのニーズに応える必要性が高まるなかで、自己解決率の向上は避けては通れない重要なテーマとなりました。そこで、お客さまが迷わず疑問を解消できる環境を整えるべく、自己解決AI「Helpfeel」への刷新に取り組むことにいたしました。
── Helpfeel導入の決め手を教えてください。
最も重視したのは、検索性の高さです。調べても何の情報も得られない、つまり、お客さまにとって「失敗体験」になってしまうと、そのツールは二度と使われなくなってしまいます。当社のお客さまの属性は非常に幅広く、たとえば契約開始一つをとっても「引越し」「電気を使う」「利用開始」など、検索時に用いられる表現は多岐に渡ります。Helpfeelの「意図予測検索機能」は、こうした言葉の揺らぎを吸収し、確実に回答に導いてくれる点に大きな魅力を感じました。
また、メンテナンスのしやすさも重要なポイントでした。いずれは、お客さまに最も近い現場のオペレーターが記事の更新を担うのが望ましいと考えていたためです。その点、Helpfeelは多機能すぎず、Webの専門知識がなくても直感的に操作できる仕様で、現場主体の運用を見据えた当社のニーズに合致していました。
24時間365日、
お客さまに「よりそう」をWebで体現する
── 自己解決AIへのリプレイス検討開始からリリースまで非常にスムーズだったと伺いました。合意形成の秘訣はどこにありましたか?
2024年10月下旬から情報収集を始め、翌年3月の引越しシーズン前にリリースすることを目標にプロジェクトを進めました。12月末には社内承認を得て、計画通り2025年3月にHelpfeelの運用を開始できました。

大きな組織であってもこのスピード感を実現できた最大の要因は、私が所属するリビング営業部の上位職による後押しに加え、Webサイトを主管している広報部門の深い理解があったからです。コロナ禍を経て生成AIが急速に広がるなか、全社的にCX(顧客体験)改善のために「新しい領域へチャレンジしよう」という機運が高まっていたタイミングだったことも、合意形成の追い風になりました。
社内説明で特に意識していたのは、「お客さま視点のメリット」と「定量的な費用対効果」をセットで示すことです。電力自由化以降、厳しい競争環境に加え、コロナ禍や国際情勢の不安定化など当社を取り巻く外部要因が大きく変化するなか、経営効率化やコスト削減を進めてきました。こうした厳しい経営環境下においても、当社は単なる効率化にとどまらず、お客さまや地域に対する価値提供を重視しております。
東北電力グループでは、「より、そう、ちから。」をスローガンに掲げ、お客さまのご要望に“より沿う”サービスの提供や地域の成長・発展に“寄り添う”取り組みを進めており、社員一人ひとりの行動指針となっています。今回のWeb上のCX改善において、関係部門の共感を呼び、全社的な推進力につながったのは、まさにこうした「お客さま目線」と「経営効率化」の双方を大切にする社員がいたからこそだと感じています。
── 運用で重視しているデータやKPIを教えてください。
運用開始からまだ日が浅い現在は、「no-strict-hit(検索して厳密にヒットするページが見つからないこと)」の削減を最重要指標としています。自己解決AIで検索したにも関わらず「答えがない」という状況は、お客さまにとっての「失敗体験」を生んでしまうからです。Helpfeelのデータを見ながら適切にヒットしなかったキーワードを特定し、それに対応する記事を追加・改善する。このサイクルを優先的に回しています。
記事作成の面では、AIによる質問文の生成機能が役立っています。自分たちが思いつく言葉だけでナレッジを作ると、お客さまが思い浮かべる言葉とズレてしまうことがありますが、AIが多様な言い換え表現を自動で作成してくれるので、客観的な視点を織り込みつつ、実際に検索されやすい記事作りができています。
── Helpfeelのカスタマーサクセスへのご感想もお聞かせください。
毎月の定例会では、定量的でわかりやすい分析結果とともに、次に取り組むべき具体的なアクションプランまで提示していただけるのが非常に助かっています。
以前はFAQの運用体制が十分に整っておらず、社内にノウハウがほとんどない状態でした。Helpfeelにはナレッジ運用のプロとして、客観的な視点からアドバイスをいただけるのを心強く感じています。定例会を終えた時点で「次に何をすればよいか」が明確になっており、当社は実行に集中できます。限られたリソースで運用する当社にとって、大きな支えになっています。
月間16万PVを実現し、入電量は約20%削減。
電話・Web双方の顧客体験が向上
── Helpfeel導入後の具体的な効果を教えてください。
現在、Helpfeelの閲覧数は導入から10か月で月間16万PVにのぼります。旧FAQと比較すると閲覧数は10倍以上に増加し、多くのお客さまに日々ご利用いただいています。これは早期に旧FAQのリンクを削除し、Helpfeelへ一本化した効果だと捉えています。複数のページが存在するとお客さまを迷わせてしまう懸念がありましたし、旧FAQよりHelpfeelの利便性が高かったため、安心して一本化できました。
SEO(検索エンジン最適化)の観点からも早期に集約したことが功を奏し、オーガニック検索からの流入は以前の32倍にまで増加しています。お客さまが検索エンジンから最短距離で「知りたい情報」へたどり着ける動線が確立できました。
こうしてWebで解決したいお客さまへ適切な情報を届けられるようになり、電話問い合わせ数は昨年比で約20%減少、応答率も大幅に改善しました。不要な入電が減ったことで、個別の有人対応が必要な問い合わせに、より丁寧に向き合えるようになっています。その結果、CX(顧客体験)は大きく向上したと実感しています。
また、これまでは多くのお客さまに自己解決を図っていただくため、SEOを重視してきましたが、今後はAIO(AI Optimization:AI最適化・AIの要約に参照されること)への対応も求められます。その前提として、自社のナレッジをWeb上に発信し続けることが重要だと考えています。AI時代においても、AIへ正確な情報を届け、お客さまへ信頼できる公式情報を提供し続ける姿勢は、生活を支えるインフラ企業として変わりません。

「仙台に引っ越すんだけど、入居前に掃除したい。先に電気って使える?」という質問に対し、東北電力の「入居前の電気を使えますか?」(Helpfeel記事)を参照してAIによる概要が提示されている
── その他の点で感じている効果はありますか?
チーム全体で、「Helpfeelを活用していこう」という意識が高まっていると感じています。たとえば、「電話問い合わせの多い口座引落日について、あらかじめスケジュールを掲載してはどうか」といった、現場発の改善アイデアが自然と出てくるようになりました。
さらに、他のグループから「この施策の内容をHelpfeelに追加してほしい」というリクエストが来るようになったのも嬉しい変化です。これまでは新しい施策のたびに専用のランディングページや特設コールセンターの設置をしていましたが、現在はHelpfeelの記事で対応できるようになりました。記事へのリンクをQRコードにしてDMに掲載するなど、Helpfeelを起点とした情報提供が広がりつつあります。リリース以降、Helpfeelの活用方法を継続的に社内へ発信してきたことで、徐々に他部門にもその価値が浸透してきたと感じています。
こうした結果、「まずはWebで自己解決、本当に必要な問い合わせのみをカスタマーセンターで対応」という役割分担が、組織として定着し始めています。お客さまは電話口で待たされるストレスから解放されますし、社員やオペレーターのリソースも最適に活用できるという好循環が生まれつつあると感じています。
AIカスタマーセンターの実現へ。
応対ログやマニュアルを統合し“AI-Ready”なナレッジ基盤を構築
── 現場の効率化だけでなく、データ活用にも注力されていると伺いました。
現在、「Helpfeel Analytics」を活用し、コールリーズン(お客さまが電話問い合わせに至った理由)の分析に取り組んでいます。
以前は、たとえば「なぜ12月に問い合わせが増えるのか」という疑問があっても、「暖房器具で料金が上がるからではないか」といった推察の域を出ないことで、確度の高い入電量削減対策を展開できませんでした。対応が後手に回ればお客さま満足度や応答率の低下につながる可能性があり、オペレーターを急に増員することも難しいことから、影響が長引くリスクもあります。
「Helpfeel Analytics」の導入で、膨大な電話応対ログをAIで分析し、入電要因を可視化できるようになりました。その分析結果は単なる問い合わせ傾向の把握だけではなく、お客さま向けFAQやカスタマーセンターのオペレーターのマニュアルのブラッシュアップへ活用し、自己解決率の向上と入電量削減・生産性向上など様々な効果を生み出したいと考えています。さらに中長期的には「なぜ解約に至るのか」といったインサイトをサービス改善やセールス施策に活かすことも視野に入れています。
また、応対ログは、Web行動データやアンケートでは捉えきれない"リアルな顧客の声"が詰まった、貴重なデータ資産です。カスタマーセンターが全社の顧客理解の起点となり、CX(顧客体験)向上やマーケティング活用につなげていきたいと考えています。
── 今後の展望をお聞かせください。
お客さまニーズの多様化に加え、人材確保が難しくなるなか、従来のオペレーターによる入電対応には限界が見え始めています。このような環境の変化を踏まえ、AIオペレーターの活用を含め、カスタマーセンター全体をAIで自動化していく「オートパイロット化」の実現は将来的には避けて通れないものだと捉えています。Helpfeel社のソリューションを導入し、「Webで自己解決、必要なものだけ電話対応」という体制の基盤が整った今、その実現に向けて取り組んでいるのが、電話応対を担うカスタマーセンター内の改革です。
具体的には、まずはセンター内のナレッジ整備から着手しており、オペレーターが実際に行っている手続きや応対フローのナレッジ化を進めています。これまでは数百ページに及ぶ紙マニュアルに頼っていましたが、こうしたマニュアルや現場で蓄積された実務知見をHelpfeelに集約し、AI活用の基盤を整備しています。そのナレッジ基盤のうえでAIを活用し、新人オペレーターでも迅速に対応できる環境を整えていく予定です。
その際に重視しているのが、単なるデジタル化で終わらせないことです。AIは与えられた情報の範囲でしか答えを生み出せません。だからこそ、将来のAI活用を見据え、AIがすぐに参照できるよう情報を整理・構造化することが不可欠です。一見遠回りに見えても、AIが正しく答えられる"AI-Ready"なナレッジ基盤を整備することが、「オートパイロット化」をはじめとしたAI活用を成功に導く近道になると考えています。
また、AIを業務へ組み込むうえでは、「どの業務・どの領域から着手するか」という見極めも欠かせません。問い合わせ件数が多い領域や、応対に時間がかかる領域、お客さまの不満につながりやすい領域を正しく特定できなければ、AIを導入しても十分な効果は得られないからです。そのため、コールリーズン分析を通じて優先的に取り組むべき領域を明確にし、その結果をナレッジ化していくことは、今後のAI活用に欠かせないプロセスだと感じています。
── 最後に、貴社と同様の課題を抱える企業へのメッセージをお願いいたします。
Helpfeelは、導入して終わりのソリューションではありません。分析を通じて現場の実態を可視化し、ナレッジ拡充からAI活用を見据えた基盤整備まで、一貫して伴走してくれます。私たちの業務や課題を深く理解し、「次の一手」を具体的に示してくれるからこそ、安心して新しい挑戦に踏み出すことができます。Helpfeelには、この分析からナレッジ整備までを支えてくれるパートナーとして期待しています。
労働人口の減少やお客さまニーズの多様化など、カスタマーサポートを取り巻く環境は大きく変化しています。そのなかで、常に変化を恐れず、社会情勢や顧客視点で新しい選択肢を提供し続けることが求められています。そのプロセスを一貫して支える存在として、Helpfeelのようなパートナーが重要だと考えています。
*本記事の内容、数値、所属・役職は、取材当時の情報です。
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