経験値のある社員の時間と「開発の手が止まる」問い合わせに、新たな対応策を
── はじめに、皆さんのご担当業務をご紹介ください。
山口様 当社は新技術を採り入れた独自の製品を手がけるメーカーで、社内には生産部門のほか、基礎研究の成果をもとに製品化やモデルチェンジを担う技術開発本部が置かれており、私はこの部門の責任者を務めています。
松岡様 私は技術開発本部の中でも、社内の新技術・基礎研究を製品化につなげる部署の所属です。具体的には組み込みソフトやアプリケーションといったソフトウエア全般の設計開発・メンテナンスを担当しており、今回Helpfeelの導入検討にも加わりました。

世界初の製品や、国内トップシェアを誇る製品など、さまざまな分野の分析計測機器を取り扱い、
人々の暮らしを支えている(左:山口様、右:松岡様)
―― Helpfeel導入までの課題についてお聞かせください。
山口様 社内システムの更新を控えることや、少子化に伴う採用難を踏まえ、当社は現在DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務の再構築に取り組んでいます。DXにはさまざまな目的がありますが、当部門では特に、デジタルツールを介在させることで個人の暗黙知を形式知として共有し、属人化しがちな業務の標準化を進めたいという狙いがありました。
その中で技術開発本部としての課題を社員に挙げてもらったところ、「問い合わせ対応で仕事が寸断されている」という意見が最も多かったことから、具体的な対応策の検討を始めました。
メーカーであるがゆえかもしれませんが、カスタマーサポートや担当営業に電話・メールで寄せられる問い合わせのなかには、技術的な回答が求められるものも多く、高度な問い合わせは技術開発本部が対応しています。ここ数年、技術開発本部に転送される問い合わせは著しく増加しています。以前は年間1,000件未満だった問い合わせ数も、昨年までには3割近く増えており(約1,250件)、問い合わせ数の増加に比例して技術開発本部の負担も大きくなってきました。
当社の問い合わせの特徴として、製品構成が専門的で多岐に渡るという点があります。お客様も食品メーカーさんや製薬会社さんをはじめ幅広いうえ、同じ製品でも対応する測定対象が異なるため、技術的な問い合わせは同じお客様と繰り返されることも多く、対応に要した時間は3年間で2倍以上(約2,000時間)となり、1件当たりの対応時間にも工数がかかっていました。

執行役員 技術開発本部 本部長 山口 登様
松岡様 ユーザーをお待たせしないよう、技術開発本部に届いた問い合わせには最優先で即時対応していますが、即答が難しく調査や検証作業も必要な場合、それまで進めていた開発業務を止めて対応せざるを得ないこともあります。
開発では複数名が連携して動くため、いったん止めてから再開するにも調整が必要です。技術開発本部には90名弱が所属していますが、もし問い合わせ対応による作業停止が何件か同時に発生すれば、部署全体の業務効率の低下に波及しかねないのが実情です。

技術開発本部 ソフト設計部 ソフト設計課 課長 兼 ソフト設計技術リーダー 松岡 秀典様
山口様 さらに、問い合わせ対応における大きな課題は、若手ではなく経験豊富な社員の時間が奪われてしまうことでした。知識が豊富な人ほど問い合わせ対応に回され、本来取り組むべき業務の手を止めざるを得ない状況が頻発していたのです。
技術開発本部では、会社として回答を一貫させるため、特定分野の専門知識を持つエキスパートが管理職として対応を担う体制もあります。算出した対応時間には管理職の工数を含んでいないため、実際にはさらに多くの負荷がかかっていたと考えられます。
数字には現れないものの、こうした見えにくい負担を軽減したい——それが今回の取り組みに込めた思いでもありました。

精密機械が多く、専門的な質問が多い。写真は多種多様な材料の熱伝導率が測定できる「迅速熱伝導率計」(奥)と、職場の暑熱環境状況を測定できる「熱中症指標計」(手前)。熱中症対策として非常に注目を集めている。
「製品マニュアル」では100点にはならない。「生きた問い合わせ」だからこそ“使えるナレッジ”になる
―― 問い合わせ対応の効率化策として、Helpfeelを選んだ決め手は何でしたか。
山口様 問い合わせ対応の解決策としては「AI」をキーワードにして探していました。その中で、AIが文章を作成してくれるAIチャットも検討に上りましたが、多くのツールがAIが回答文そのものを生成するため、ハルシネーションの観点から正確性の担保が難しく、結局人がチェックしなければならないので工数は変わらないと感じました。
Helpfeelは、意図予測検索なので、言葉の拡張にAIを使用していますが、回答そのものをAIが生成するわけではないので、AIが偽の情報を生成するリスクがなく、情報の正確性が担保されると感じました。さらに導入後に運用をサポートしてくれる体制や傾向の分析をしてくれるのもよいと感じました。
松岡様 製品の取扱説明書からFAQを作ることも考えました。製品に関するお問い合わせの中には、最終的に基本手順のような取扱説明書に書いてある内容と同じ回答に行き着くものが多くあるので、そこに行き着くのであればマニュアルから作れるだろうと考えました。
しかし、実際には測定の目的や試料の種類、機器の使用環境はユーザーによってさまざまです。ですから、メーカー側が正しく、一般的な説明を公開していても、具体的な問題に直面しているユーザーとしては、ご自身の困りごとのケースに当てはまる確信がない限り「今回は特殊なケースかもしれない」と、電話やメールで確かめたくなるのです。
つまり「端的な結論だけでは解決に導くのが難しいのに、あらゆるパターンを網羅して説明し尽くすのも非現実的」というジレンマがありました。ですから、製品マニュアルから作れば、ほぼ網羅できるだろう、という考えでは100点にはならなかったんですよね。
当社のこうした課題に対し、ユーザーが実際に問い合わせをした記録のデータがあれば「問い合わせ傾向を踏まえたトピック設定と、過去回答を踏まえた記事作成」ができると知りました。製品にはその製品特有の質問があります。ですから、これらの膨大なデータからよく問い合わせを受ける内容を分析して、優先順位をつけて記事を作っていくと本当に減らしたい問い合わせを狙い撃ちできると思いました。
山口様 Helpfeel社のサポートを得て大枠ができたところで、技術開発本部の社員がFAQをテストしたのですが、さまざまなパターンで “意地悪”な質問をしても、安定して的確な回答が返ってきました(笑)。現場として「これは行ける」と確信し、さらに問い合わせ対応の時間削減を人件費換算した効果が費用を上回ることも見込めたため、最終的に導入を決めました。
製品別の6カテゴリに分類し、それぞれキーワード・質問文の入力に応じて回答文が提示される
―― リリースしたFAQの概要をお聞かせください。
山口様 コーポレートサイトの「よくあるご質問」ページに、Helpfeelの操作画面を充てています。製品別の6カテゴリに分類し、それぞれキーワード・質問文の入力に応じて提示される回答文を、合わせて約200件公開しています。
回答文は端的な結論だけを示すのではなく、問い合わせが多い利用条件をいくつか例示したり、特に重要なポイントは表現を変えながら繰り返したりすることにより、読んだユーザーが確信を持って自己解決できる内容にしています。
松岡様 このような実践的な回答文は、問い合わせ対応のたびに技術開発本部の社員が残してきた、約1万件の記録を元にしています。
具体的には「Helpfeel Analytics」のサービスを利用し、過去の回答履歴をクラスター分析しました。頻出トピックの抽出と、FAQ記事のドラフト生成をお願いし、出てきたものを私たちが修正して仕上げています。

―― 1万件の問答を記録していたとは、すごいですね。
松岡様 20年分です。ただ結果的にはあまりに古いデータが混在すると現在の製品仕様とマッチしないため、直近10年分をFAQのベースにしました。
山口様 問い合わせの履歴としても、製品開発のためにも貴重な情報になると思って、コツコツと貯めてきた問い合わせ内容のデータです。「いつか役立つかもしれない」と記録を続けてきたのですが、問い合わせ内容を1件1件Excelに残していたデータのままでは、知りたいことを上手く検索できませんでした。「いつか役立つ」と思っていましたが、現実的な活用は「正直無理や」と諦めていたところ、こういった形で生かせたのは発見でしたし、残してきたものを生かせてよかったと考えています。
―― リリース後、社内からの反響はいかがでしたか。
松岡様 グループウェアでリリース告知をしてすぐ、技術開発本部以外も含めた社内の各方面から、多数の“いいね”が付きました。
もちろん今後の期待も込めてでしょうが、私たちに限らず、顧客接点を持つ部署の社員がみな、こういった仕組みを求めていたのだと思います。エンドユーザーであるお客様が直接FAQでお調べになるだけでなく、カスタマーサポートが回答の参考にする、あるいは営業先で聞かれたことをその場で答える一助としても、大いに活用されることを期待しています。
山口様 製品カテゴリ別に、頻出のトピックを多いものから順に記事化したので、社員各自が何となく把握していた問い合わせの動向が可視化され、「やはりそうか」と納得できるようになったことも大きいと思います。
人的依存から脱却する組織へ。採用では解決できない課題を、ナレッジ活用で突破する
―― 最後に、Helpfeelへのここまでの評価と、今後の活用に向けた展望をお聞かせください。

松岡様 今回Helpfeelを導入し、頻出の問い合わせへの回答を仕組み化できたことで、当社が目指す「暗黙知を形式知に変えるDX」のスタートラインに立てたと感じています。
問い合わせ対応による開発寸断がFAQによってどこまで減らせるか、また素早い自己解決が顧客満足につながるかといった具体的な効果は、今後検証していくこととなります。利用動向に応じて、コンテンツの内容やFAQへの導線などをさらにブラッシュアップしていくつもりで、引き続き手厚いサポートにも期待しています。
山口様 今回の取り組みは、まず技術開発本部の負担を低減したいという課題認識から出発しました。そのため、問い合わせ対応に従事する社員の時間単価や作業効率を軸に費用対効果を検討してきました。
しかし、その背後には人口減少が進む社会における構造的な課題があります。限られた人的リソースのなかで、いかに生産性を維持・向上させるかという視点は、当社に限らず多くの企業に共通するものです。
そう考えると、Helpfeelのような仕組みを導入しなかった場合、増大する業務負荷を吸収できる人材を十分に確保できるのかという問いが生じます。
人的依存を前提としたオペレーションには限界があります。ツール導入は単なるコスト削減手段ではなく、持続的な事業運営と競争力の維持を見据えた、経営上不可欠な投資になるのではないでしょうか。
FAQという仕組みについては「就業規則上の取り扱いなど、社員から電話で寄せられる問い合わせへの対応にどうか」と、当社の管理部門でも前向きな反応がみられます。データ活用という意味合いでも、社内システム上には部門間の調整プロセスや、各部門独自の記録が残されていますが、まだまだ十分には生かせていません。Helpfeel Analyticsによる実績を弾みに、そうした“お宝”の発掘を含め、さらなるDXの推進を進めていきたいと考えています。
